栄養とフレイルの関係について
更新日:4月7日
介護の手前の状態である「フレイル」には、いくつかの悪化要因があります。その中の1つが「栄養・食事」です。
食事は健康に影響する!とわかっていても、しっかり意識して食事をとっている方は少ないのではないでしょうか?今回は、どのようなものを食べればよいか?食事にどのような工夫ができるか?など、実際に生活する中でおこなえる方法をご紹介します。明日からの食事に、少しでも生かしていただければ幸いです。
フレイルと栄養の関係性
まずは、フレイルと栄養の関係について簡単にお伝えします。
フレイルとは?
フレイルは、「虚弱」という意味の言葉で、医学用語では「健康から要介護へ移行する間の、心身が弱ってきている状態」のことです。誰でも、いつまでも若い頃と同じような体力・健康は維持できません。少しずつ年齢を感じることが増えていくのは、自然なこと。ですが、フレイルが進行すると、「体の衰え」「精神的な不安や認知機能の低下」「他者との交流の減少」が起こり、心身が弱ってしまいます。
フレイルをきっかけとして心身の働きが衰え、介護が必要な状態になれば、日常生活にさまざまな制限が生じてしまうでしょう。好きなときに好きな場所へ行く、好きなものを食べる、友人や家族と楽しい時間を過ごすなど、日常にある楽しみを思いっきり謳歌するのは難しくなります。今は人生100年時代ですから、自由のきかない時間は少しでも短く、楽しく自分らしい時間は長くしたいですよね。そのために、フレイルの予防に取り組むことが大切なのです。
低栄養がフレイルの引き金に
低栄養は、体の衰えに直結し、フレイルの引き金になります。「体は、食べたもので作られる」と聞いたことがある方もいるでしょう。食べる量が少なすぎたり、偏ったものばかりを食べたりしていれば、体を万全の状態に保つことはできません。
加齢や運動量の低下に伴い、必要なエネルギー量(カロリー)は減り、食べられる量も減ります。だからといって、「ご飯と味噌汁に漬物だけ」「菓子パンにコーヒーだけ」のような食事になっていませんか?フレイルの進行には、とくに以下の栄養素の不足が関係していると考えられています。
・タンパク質の不足肉や魚、大豆製品、乳製品などの摂取が減っていませんか?タンパク質は、筋肉の材料になる重要な栄養素です。筋肉量の減少は、介護や寝たきりへの第一歩です。自分の足で元気に歩くために、タンパク質が不足しないよう注意しましょう。
・ビタミンやミネラルの不足野菜や果物は、ビタミンやミネラルが豊富に含まれています。これらの摂取が不足していると、身体機能の低下・筋力の減少などにつながる可能性があると報告されています。骨密度の維持や免疫力の向上など、健康のために欠かせません。野菜や果物を意識して取り入れましょう。
・脂肪酸の不足「脂肪は悪いもの」という印象が強いかもしれませんが、体の機能を維持するためには必要な栄養素です。とくに、魚に含まれる脂質はコレステロール値のバランスを整えるのによく、認知機能の維持にもよい影響があるとされています。「体によい脂肪酸」を選んで、適切に摂取しましょう。
「歳をとったから粗食で」「子供が巣立ったから適当なご飯で」ではなく、歳をとったからこそ食事をおろそかにしてはいけないのです。
フレイル予防につながる食事の工夫
では、実際にどのような食事を取ればよいのでしょうか?食事が大切だとわかっていても、なかなか実践にうつせないという方も多いでしょう。自炊が得意ではない、外食が多いなど、一人ひとりさまざまな事情があります。ですが、「全く意識しない」よりは「少しでも変える」ことが大切です。今回は、フレイル予防のための食事の工夫を3つご紹介します。ご自身の生活に取り入れられる方法があれば、1つでも取り入れてみてください。
1日3回食べる
多くの方は「太らないように」気をつけていますが、年齢を重ねてくると「痩せないこと」も大切になります。実際、フレイル予防の観点から、70歳以上の方が目標とするBMIの値は引き上げられ、BMI 21.5以上になりました。
150cm | 155cm | 160cm | 165cm | 170cm | 175cm | 180cm | |
BMI = 21.5 | 48.4㎏ | 51.7㎏ | 55.0kg | 58.5kg | 62.1kg | 65.8kg | 69.7kg |
BMI = 25 | 56kg | 60kg | 64kg | 68kg | 72kg | 77kg | 81kg |
※70歳以上の目標BMIは21.5以上、25.0未満
とくに、「ダイエットをしているわけでもないのに、痩せてきた」という方は、注意が必要です。食べる量が少ないのかもしれません。食事を抜く習慣があるのであれば、まずは1日3食、回数を増やすことから始めてみましょう。
回数を増やすことで、量を増やせるだけでなく、摂取できる栄養素や食材の種類を増やすことにも繋がります。
野菜とタンパク質をプラス
食事のたびに、ほんの少しでもよいので野菜とタンパク質を加えるようにしましょう。「チョイ足し」でも、毎食・毎日続ければ大きな変化です。
たとえば、朝にパンとコーヒーが定番という方は、ゆで卵とミニトマトをつけるのはいかがでしょうか。ご飯とお味噌汁ですませるのであれば、お味噌汁に豆腐や溶き卵を入れればタンパク質を、ネギを足せば野菜をとることができます。昼に牛丼を食べるのであれば、サラダやお新香・キムチなどの小鉢をつけてください。野菜の量が増え、バランスがよくなりますよ。
また、お肉だけでなく、魚を食べる日も増やしましょう。お肉に含まれる飽和脂肪酸よりも、魚に含まれる不飽和脂肪酸の方が、フレイル予防に効果的なのではないか、といわれています。魚は調理が少し面倒で手を出さない方もいると思いますが、缶詰やお惣菜などを使って取り入れてみてください。
チョイ足しのために、あまり手間をかけずに食べられる食材を用意しておきましょう。
【チョイ足しにおすすめのタンパク質】豆腐、チーズ、卵、ヨーグルト、魚の缶詰、ツナ缶【チョイ足しにおすすめの野菜】ミニトマト、きゅうり、ネギ、レタス
カット野菜・冷凍野菜・乾物を活用
自炊があまり得意ではない方、1人や2人暮らしの方は、食材をたくさん買うと余らせてしまいますよね。そういった場合は、カット野菜・冷凍野菜・乾物を活用しましょう。健康のためだからといって、完璧に自炊する必要はありません。各々が、できる範囲で取り組んでみてください。
カット野菜なら、複数種類の野菜を少量ずつとることができます。冷凍野菜も、ブロッコリーやほうれん草、オクラ、アスパラ、枝豆など、さまざまな種類があります。解凍するだけで簡単に食べられるので、自炊が苦手な方でも簡単に野菜を増やすことができるでしょう。
海藻や野菜・きのこなどを乾燥させた乾物も、インスタントの味噌汁やラーメンに加えるだけで簡単に栄養を取れるため、ご自宅に常備しておくと便利です。
低栄養につながる「お口のトラブル」
ご高齢になると、食が細くなっていても「まぁ、こんなものかな」と思う方が少なくありません。ですが、食欲が出ない、食事が楽しくないと感じるその原因は、改善できる場合もあります。
食事をとるには、「歯で食材を噛む・舌で食材をまとめる・飲み込む」などの働きがしっかり機能しなければなりません。歯が十分にない、入れ歯が合っていない、舌の動きが悪化している、飲み込む力が弱っているなどの原因が考えられます。こうしたお口の機能の低下は「オーラルフレイル」と呼ばれ、フレイルや介護状態へ進展する大きなリスク要因です。歯科や耳鼻科で相談できますので、衰えを実感するのであれば、受診してみてはいかがでしょうか。
そのほか、加齢や薬の影響で唾液が出にくくなり、口が渇くことで、味覚に変化を感じることがあります。口が渇く「ドライマウス」の場合は、ガムを噛んで唾液の分泌を促す、口内用の保湿剤を使うなどの対策で味覚が改善し、食事を取れるようになるかもしれません。口の渇きや味覚の変化でお困りの場合は、歯科・耳鼻科・内科など、お近くのクリニックへ相談するとよいでしょう。
まとめ
今回は、栄養とフレイルの関係について解説するとともに、フレイル予防のためにできる食事の工夫を3つご紹介しました。食事は毎日のことですから、全く気にかけないよりは、少しだけでも取り組むことが大切です。今回ご紹介した工夫のうち、何か1つでも取り入れて実践してみてください。食事の工夫から、フレイル予防、健康維持をおこないましょう。
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参考
・厚生労働省.通いの場.食べて元気にフレイルを予防するためにhttps://kayoinoba.mhlw.go.jp/article/002/
・厚生労働省.健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だhttps://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202111_00001.html
・公益財団法人長寿科学振興財団.各論3まちづくりを通してのフレイル予防・対策1.フレイル予防に資する栄養管理とそのアプローチhttps://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-5-1.html
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