「第二の脳」腸が心を動かす? 脳腸相関の基本を解説
- 健幸アンバサダー

- 9月15日
- 読了時間: 6分
「脳と腸がつながっている」ってどういうこと?
「緊張するとお腹が痛くなる」「ストレスが溜まると便秘になる」。こんな経験、誰にでも一度はありますよね。実はこれ、単なる気のせいではなく、科学的にも裏付けられた現象なのです。近年、医学や心理学の分野で注目されているのが、「脳腸相関(brain-gut axis)」という考え方です。

脳と腸は、神経系・ホルモン・免疫系といった複数のルートを通じて情報をやり取りしており、お互いの状態が強く影響し合っていることが、近年の研究で次々と明らかになってきました。特に腸には、「腸管神経系(enteric nervous system)」と呼ばれる独自の神経ネットワークが存在しており、その神経細胞の数はなんと脊髄と同程度。腸は、ある程度の判断や反応を脳の指令なしに自律的に行うことができるため、「第二の脳」とも称されるようになりました。
腸が心に影響するメカニズム
「脳腸相関」は双方向の関係ですが、最近とくに注目されているのが、腸から脳への影響(腸→脳)です。つまり、腸内環境が脳の働きや心の健康にまで及ぶという、新たな視点が注目されているのです。
たとえば、腸内環境が悪化すると、腸の粘膜が持つバリア機能(腸管バリア)が低下し、通常は吸収されにくい炎症性物質や毒素が血流に乗って体内を巡るようになります。これが脳にまで届くと、脳内で微小な炎症が引き起こされる可能性があり、これが気分の落ち込みや集中力の低下、不安感などにつながるとも指摘されています。このような現象は「リーキーガット(腸漏れ)」と呼ばれ、さまざまな体調不良の背景にあるとして注目されています。
また、腸内細菌のバランスの乱れは、脳内の神経伝達物質。セロトニンやドーパミンの合成・機能にも間接的な影響を与えると考えられています。中でも、セロトニンは「幸せホルモン」として知られており、心の安定やポジティブな感情の維持に欠かせない物質です。実は、体内のセロトニンの約90〜95%は腸内(特に小腸の粘膜細胞)で生成されていることがわかっています。

ただし、腸で作られたセロトニンは脳には直接届きません。腸のセロトニンは、主に消化管の動きや血管の収縮などに関与しています。しかし、腸内細菌はセロトニンの原料となるトリプトファンの代謝に関わっており、このことが間接的に脳内セロトニンの合成に影響している可能性があると注目されています。
さらに、腸内細菌叢(腸内フローラ)は、ストレス応答系であるHPA軸(視床下部―下垂体―副腎系)とも密接な関係を持ちます。最近の研究では、腸内細菌の状態がストレスへの反応性や回復力に影響することが示されており、腸を整えることがストレスに強い脳と体をつくるカギの一つとされています。
なぜ今「脳腸相関」が注目されているのか
こうした脳と腸の密接な関係は、メンタルヘルスや神経疾患のケアにも応用され始めています。たとえば、腸内環境を整えることでうつ病や不安症の症状が軽減されたという臨床研究が報告されています。また、発酵食品をよく摂取している人ほど、ストレス耐性が高い傾向があるという疫学データも出てきています。
さらに、自閉スペクトラム症(ASD)や認知症などの神経発達・変性疾患との関連も注目されています。まだ研究段階ではありますが、腸内細菌が脳の発達や神経伝達に影響を与えている可能性が示唆されており、今後の予防医学や治療法の鍵になるともいわれています。

もちろん、腸内細菌だけですべてが決まるわけではありません。しかし、腸と脳はまさに“共働関係”にあることがわかってきた今、心と体の両方を見つめるヘルスケアの重要性がますます高まっています。
今日から意識できる“脳と腸にやさしい習慣”
脳腸相関のバランスは、日々のちょっとした習慣の積み重ねで整えることができます。以下に、誰でもすぐに始められるセルフケアのヒントをご紹介します。
1. 発酵食品と食物繊維を一緒に摂る
ヨーグルト、キムチ、味噌、納豆などの発酵食品には、乳酸菌やビフィズス菌が豊富。これに加え、水溶性食物繊維(わかめ、ごぼう、バナナなど)を摂ると、善玉菌のエサとなり、腸内環境がより整いやすくなります。

2. よく噛んで、ゆっくり食べる
しっかりと咀嚼することで副交感神経が優位になり、腸の動きが活性化されます。満腹感を得やすくなるため、過食防止や血糖コントロールにも有効です。
3. 朝の光とストレッチを習慣に
朝起きたら、深呼吸と軽いストレッチ、そして日光を浴びることを意識しましょう。これにより、自律神経が整い、腸のぜん動運動やセロトニンの合成が促進されます。

4. 寝る前のスマホはお休み
夜間の強い光刺激は、脳の覚醒を引き起こし、自律神経のバランスを乱す原因になります。できれば、就寝1時間前にはスマホやPCの使用を控え、“デジタルデトックス”タイムをつくりましょう。
腸と脳を整えて、内側から「健幸」へ
「脳腸相関」は、単なる流行のキーワードではなく、心と体が本質的につながっていることを示す重要な概念です。私たちは「頭で考える」だけでなく、「腸で感じて、反応する」存在でもあります。つまり、感情や思考、行動には腸内環境が大きく関わっているということです。日々の選択が、腸内フローラを育て、結果として気分の安定や前向きな思考、健やかな体を支えるのです。

腸を整えることは、脳をいたわること。そしてその積み重ねが、毎日を軽やかに、しなやかに生きる力へとつながっていくのです。
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出典・参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット セロトニン(神経伝達物質)の働きに関する解説ページhttps://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-074
厚生労働省 e-ヘルスネット メラトニン(睡眠ホルモン)の働きについてhttps://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-062
Mayer EA. Gut feelings: the emerging biology of gut–brain communication. Nature Reviews Neuroscience. 2011;12(8):453–466. https://www.nature.com/articles/nrn3071?utm_source=chatgpt.com

塚尾 晶子
株式会社つくばウエルネスリサーチ 取締役副社長/筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センターアドバイザー/保健師
筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程修了 博士(スポーツウエルネス学)/ 専門領域はスポーツウエルネス学、保健学、人間環境学、公衆衛生学。
旭化成株式会社での産業保健活動、日本看護協会での健康政策の厚生労働省委託事業推進や保健師現任教育、法政大学での兼任講師等を経て、現職。地方自治体、企業等のSmartWellnessCity(健康都市政策)推進のコンサルティング、人材育成、国の調査研究事業等に従事し、国や地方自 治体や大学、企業と連携して健康づくり無関心層を減少させ健康格差を和らげる政策に取り組む。









